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「ごちそうさまでした」と一言添えて、カウンターの上にカップを上げる。
それを受け取ってから、彼女が荷物を整えている間に、濡れた手を拭いて、一足先にレジ横まで移動した。
ハンガーから彼女の上着を手に取って待っていると、心なしか少女は嬉しそうに歩み寄って、コートに袖を通した。
「ブレンド1杯で、540円です」
財布を開いた彼女は、ほんの一瞬、難しい顔を浮かべてから、小銭をかき集めて受け皿に並べた。
金額を確認して、レシートを手渡す。
「いつもありがとう」
レジ横のストックから飴を取り出して添えると、彼女はほんのり顔を赤らめて微笑んだ。
「ごちそうさまでした」
と、会釈して、入り口に向かう。
店を出る前に、もう一度振り向いて頭を下げる。店を出てからも、帰りしなに窓の向こうから遠慮がちに手を振っていた。
それを店員一同とカウンターの中年二人でにこやかに見送る。
「健気だねェ」
常連の一人がしみじみと呟く。
「付き合ってあげればいいじゃないか」
「あんなに若くて可愛いのに」
「高屋より絶対オレのほうがイケてると思うんだが」
口々に勝手なことを言う三人を無視して、カウンターの流しに戻ると、
「あの年頃の女の子と付き合うのは大変よぉ」
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