鮭ダービー

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私が物思いに耽った僅かの間とはいえ話は少々進んでいた。 「皆さん各自異なる色のゼッケンを身につけてますよね。自分と同じ色と番号タグをつけた鮭とコンビを組んでもらいます。そして手持ちのハエ叩きで鮭をゴールに導いてもらいます。距離は約半周。あちらにみえるゴールが終着地点です。 尚、鮭を直接叩くのはおやめ下さい。とにかく水面を叩いたりハエ叩きで鮭を寄せるように進路を妨害して鮭をゴールへ導いてもらいます。しかし鮭が逆走や、ゆっくり泳いだりすることが多々あります。そこら辺りの加減は皆さんの腕の見せ所でお願いしますね」 そう言って説明の男性が少し笑った。それにつられて各々の緊張が少し解けたのであろうか。笑みがこぼれた。そのタイミングで50代位の参加男性が「鮭料理なら自信あるんだが」と言葉を発する。説明をしていた男性は「料理より簡単ですよ。そんなに難しく考えないで下さい。魚は人間なんて関係ありません。鮭がいうことをとを聞かずゴールに辿りつけない人も沢山もいますしね。最初にお話した通り本格的な競争ではないですから。むしろ皆さんにはハプニングを期待します」と言われた瞬間、選手数名から笑い声が聞こえた。 そんな中、私は笑い顔を作りながらも内心ほっとした。そんなに難しいものではなさそうだ。要はハエ叩きで鮭をゴールまで導けばいいってことなんだなと。
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