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第四段階は、康宏のマンションへ出向く口実作りである。
口実は、おばさんの方から提案してくれた。
「私からおつかいを頼まれたってことにするのはどうかしら」
どうせ康宏は帰ってこないと思ったおばさんが、私に彼への差し入れを託したという体だ。
取り急ぎ有名百貨店の上質な紙袋にそれらしい差し入れを作る。
康宏が好きな地元の銘菓やうどんやそばなどの乾麺を詰めると、見るからに〝母から息子への差し入れ〟が完成した。
これを彼に届けるのが私のおつかいだ。
康宏は今日帰省することになったが、私は明日の午前からカフェのバイトがあるので、差し入れを預かったまま康宏とは入れ違いで橘(たちばな)へ戻る。
そして明日のバイト後、康宏が帰省したことを知らない体で、彼女ひとりがいるであろう康宏のマンションを訪れ、吟味させていただく。
「なんだかスパイ映画みたいで、ワクワクするわね」
純粋に息子の幸せを願って私を信頼してくれているおばさんには悪いけれど、私は相手の女が本当はいい人だろうと関係なく、別れるよう仕向けるつもりだ。
「うん。ドキドキするけど、頑張ってくるね」
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