57人が本棚に入れています
本棚に追加
そして、俺と浅見で企画課になる。浅見は、周囲が呆れる程の潔癖性であった。
「浅見さん、毎日、送迎付きで会社に出勤しているみたいよ」
営業一課のメンバーは、既に営業に行ってしまっていて、社内には殆どいない。今日は、柴田は打ち合わせが入っているらしい。
「それは、有名だよね」
社長ですら電車通勤であるのに、浅見は送迎付きで、しかも黒塗りの車であった。本人曰く、父親の出勤の際に、一緒に乗せてきて貰っているという。でも、ならば、会社の前で降りるのは遠慮すべきであろう。
浅見は人混みが苦手で、人に触れられるとすぐに消毒していた。故に、通勤で混む道も歩けないのかもしれない。
「あの、必死で消毒していることころが、可愛いよね……」
もしかして、柴田は浅見が気に入っているのだろうか。
「可愛い?」
俺など、姿を見られただけで、消毒されそうな勢いで否定されている。あまりに否定が凄いので、あまり席に帰りたくない。
「……可愛いよね?」
今度、浅見に営業一課への書類を運んで貰おう。
「分かった、この話は打ち切りで。又、飲んだ時にでも話そう。それで、柴田は、技術会議に出るの?」
今日の会議室のスケジュール表に、技術会議があった。技術部が、新製品の完成間近になると、説明するものであった。企画課はお呼びがかからないので、自分で出席したいと訴えるしかない。そこで、川越が俺用に末席を用意してくれていた。
「そうだよ」
俺は柴田をじっと見る。
「資料を見せて欲しい。俺の所には、事前資料が届かなかった」
実力が無いと、こういう時に差別を受ける。本社に来たばかりの俺に、誰も資料を送ってくれない。俺も、知り合いがいないので、気軽に頼む事ができない。
「あ、送っておくよ」
社内ならば、機密資料でも回覧して読める。俺は、柴田に手を合わせて礼を言う。
「じゃ、席に帰って読んでくる」
会議の前に資料に目を通したい。俺は、営業一課から戻ると、自分の席に着いた。
しかし、席に着くと、再び浅見に睨まれている。
しかし、この部屋は窓側に背を向けて、川越の席、その正面に浅見の席がある。出入口の横に俺の席があるので、見ようとしなければ見えない筈だ。浅見は、振り返って俺を睨むのだ。
最初のコメントを投稿しよう!