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梨那さんが作ってくれた夕飯を食べた。メインディッシュはボルシチで、それに入れるサワークリームを頼み忘れたと言っていた、一人買いに行ったのはそれだったんだ。「なくてもいいんだけど」と笑っていた。
食べ終わると早々に千紘は梨那さんを送って行った。
一時間ほどで帰宅する。
「ただいま」
声は不機嫌だ、まだ佐々木の事、怒ってるのかな?
「おかえり」
俺はリビングのソファーでビールを飲みながら出迎えた、目が合った千紘はやっぱりムッとしている。
「アキ」
千紘は仁王立ちで腕組で横柄に聞いた、俺はソファーに座ったままその姿を見る。
「ん?」
「なんで佐々木とキスなんか」
「不可抗力だって言ったろ。あんないきなり」
「俺とだって、街中なんかじゃしないのに」
「しないの、普通はしないの。男と男だからじゃなくって、日本人は街中なんかじゃしないの」
俺もムカついてちょっと声を荒げて言った、そんな事で怒られたくない。
「部屋にまで上げやがって」
「あんなとこで喧嘩始めたら、みんな見てただろ、どう見ても痴話喧嘩を。いい晒し者だ」
「だからって、あんな男」
「俺は千紘がいいって言った! 千紘だから好きだって言った!」
自棄になって言う、千紘はにやりと笑って俺の隣に座る。
「聞こえなかった、もう一回」
「聞こえてない事ないだろ! 今までだって言ってるし!」
「あいつより俺がいいって言え」
「当たり前の事聞くな!」
「当たり前だからって言わないでいると、伝わらないんだぞ。ちゃんと言えよ」
細い滑らかな指で頬を撫でられた、ああ、ずるい、そんな優しい撫で方は、卑怯……。
「……他の男じゃ駄目だ、千紘がいい。千紘が好きだ」
「もう一回」
「千紘が好きだ」
「もう一回」
「千紘が……」
その言葉はキスで塞がれた。
「……好き」
唇が離れた隙に言った、その口を再度塞がれる。
濃厚なキス、あっと言う間に溶かされた。
「……酒臭い」
千紘が呟く。
「じゃあ、やめろよ……」
俺が力なく言うと、千紘はにやりと笑う。
「やめる訳ないじゃん、一瞬でも浮気したアキにお仕置きしないとだろ」
「う、浮気なんか……!」
な、なんでバレてる……!?
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