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「何の本、読んでるの?」 高い声に俺は顔を上げた。 小学校低学年と見える男児が、ベンチに座った俺の前に立っていた。 少し身なりがいいように見えた、デパートの屋上だ、もしかしたらブルジョア階級の家族がブランド物でも買って、少し遊ぼうと上がってきたのか。 「……なんでもいいだろ」 俺は面倒でそう答える、到底小学生に判る内容ではないだろう。 「でも、こんなに天気いいのに、ずっと読んでるんだもん、面白いの?」 「……面白いは、面白いかも」 俺が本に視線を戻すと、男児は俺の隣に座った、まだ話すつもりか。 「僕もね、本読むの好きなの。この間は星新一さんの読んでね」 少し感心する、星新一などこんな歳の子が読むには難しいのでは。 他にもあれを読んだ、これが面白かったと、子供は立て板に水のごとくよくしゃべった。 俺は本に視線を落したまま、文字も追わずにその話に相槌を打っていた。 「千紘ぉ」 女性の声に、子供は「あ!」と声を上げた。 「お母さん!」 声を掛けた方を見ると、40代後半と見える女性がはっとした顔でこちらに寄ってくる。 子供は走り寄り、女性の体にしがみついた。 「もう、急にいなくなってびっくりするでしょ」     
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