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「千紘、いいからお前はもう戻れ……」
「なんで嘘ついたんすかー。それって俺に気を持たせようって言う心遣いー?」
「違う!」
「アキ! 早く離れろ! ムカツク!」
「え、ああ……」
慌てて腕を解こうとするとそれはあっさり離れた、そしてその手は俺の頬を包むように捉え向きを変えさせられると、キスをされた。
一瞬、周囲を歩く人々の足が、止まった気がした。
「──アぁキぃ……」
低い声がする。
「や、これは不可抗力だろ……佐々木!」
「何度もした仲でしょ」
「してない!」
嘘はついてない、何度もは、していない。
「後輩だかなんだか知りませんが!!!」
千紘は片腕で俺を抱き寄せた、もう一方の手にはレジ袋が三つも下がっている。
「これはもう俺のもんなんです! 手出し無用でお願いします!!!」
がっしりと抱き締められた、やばい、嬉しい。
「えー先輩ぃ。絶対俺の方がひいひい言わせてあげられますって」
「いや、それは嬉しくないから」
「アキはもう十分ひいひい言ってるから!」
「千紘、お前は黙ってろ……」
俺を挟んで二人は言い合いを始めた、通行人が何の騒ぎだと見ている、恥ずかしい事この上ない。
と、そこへ。
「あれ、やだ、いた、千紘」
可愛い声がした、エプロン姿の梨那さんだ。
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