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「ごめんなさい、面白そうだったから」 春休みのデパートの屋上は、ちょっとした遊園地になっている。 元からの遊具のほかに、移動動物園といくつかの大型の遊具が来ていた。 そこへ、俺も、施設の子供達と来た。 年かさの者達は面倒そうに行きたがらないが、俺はなんだか職員の受けがいいようで頼まれ事も多く、小さい子の世話も率先してやった。だから今日も「一緒に行こう」と誘われてきた。 「少し待ってて言ったのに。まあ何事無くてよかったわ」 そう言って女性は子供の頭を撫で、俺に向かって会釈をした。 別に何もしてないのに……。 女性は背を向けると、子供の手を取って歩き出す。 白くて柔らかそうで、温かそうな手だった。 ──俺にはないもの。 羨ましいとか哀しいとかは、ないけど。 *** 父はアルコール中毒で、DVがひどかった。散々母からお金を搾取して突然いなくなった。 母は、父がいる時の方が優しかった。 いなくなると、ネグレクトが始まった。 四畳半の部屋に閉じ込められた。閉じ込められたと言っても、鍵かかかるわけでない。それでも「いい子にできない子は、この部屋から出さないよ」と言われ、カーテンも触るなと言われ俺は大人しく従った。 また優しい母になってくれるかと期待して。     
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