遭遇

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各駅停車の電車が出ると、すぐに快速電車がホームに停まる。 江元は列に流される。普段、江元が立つ場所にはすでに人がいて、吊皮のある場所にさえ行くことができなかった。立った場所はドア付近のちょうど真ん中で不安定な位置だ。 電車が動き出す。 江元は周囲の動きに合わせて身体を揺らした。……まいったな、と心の内で何度もつぶやきながら、足を踏ん張って揺れに耐えた。 電車がトンネルに入り、地下鉄に変わった最初の駅で乗り込んできた背の高い女子高生が前に立った。江元と同じ高さに顔がある。制服で娘と同じ女子高校の生徒だと分かった。マスクをしていて顔はよく分からないが、目元を見れば美しい少女だと思った。 まさか、地下鉄の花子さんじゃないよな。高田の話では背の低い高校生のはずだ。……その時、江元の心の中でうずいたのは恐怖ではなく好奇心だった。 揺れに合わせて女子高生の顔が江元の肩に乗った。首を曲げればキスしてしまいそうな距離だ。自分のような中年男と密着するのは不愉快だろうと思った。娘の安奈もこんな状況で通学しているのだと思うと可哀そうに思う。中学のころは一緒に通ったから、かばうことが出来たが……。 今日は朝練があるといって早くに出ていったから、これほど電車は混んでいないだろう、と自分を慰めた。
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