職員室

2/3

10人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
翌日のテレビニュースで、痴漢と疑われた男が地下鉄の線路に飛び降り、そのまま行方不明になったという報道がされた。ホームから線路に飛び降りる防犯カメラの映像も流された。 「防犯カメラの映像、見ました? 危ないですよね」 「地下鉄は感電する可能性もありますよね」 朝の職員室でも線路を逃げた男の話題で持ちきりだった。 「関電もせず、姿も確認されていないところを見ると、うまく逃げおおせたようですね」 楽しそうに言ったのは数学担当の茂木克朗だ。 「茂木先生、犯人が逃げたのを、喜ぶのですか?」 国語担当の長嶋美園が少しばかり目尻を上げて抗議する。正義感が言わせるのではなく、痴漢をするような女性蔑視に対する嫌悪があった。 「逃げた男が痴漢をした確証はないと思いますよ。冤罪かもしれない」 「奥様の前でもそんなことが言えますか?」 美薗は妥協しなかった。 「長嶋先生も痴漢にあった経験があるのですか?」 体育教師の高田滋がきくと、「も、とはどういうことですか?」と、美園の声は鋭くなる。 「まぁまぁ。昨日はその痴漢のせいで、私も電車に閉じ込められて迷惑しましたよ。その時、変な話を聞いてね。長嶋先生は生徒たちから、地下鉄の花子さんという妖怪の話を聞いたことがありますか?」 管理職として、江元は話に割って入り、争点を逸らした。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加