職員室

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「そういえばホームルームでそんな話が出ましたね。子供らしい噂話です。首にニンニクをぶら下げておけば近づいてこないっていうことでしたね」 美薗が表情を和らげた。 「地下鉄内にニンニクなんか持ち込めないですよね。でも、実在するらしいですよ。吸血鬼」その場で一番若い響鬼渉(ひびきわたる)がいう。 「地下鉄の花子さんが吸血鬼と同じなら、銀の十字架でも大丈夫なんじゃないか」 茂木が妖怪を信じる響鬼を笑った。 「笑い事じゃないですよ」高田が声をあげた。「僕、聞かれましたから。日比谷線で。……私綺麗?って……。気持ち悪かったなぁ」 「へぇー。それでどうしたんですか?」響鬼がきく。 「もちろん、綺麗だって応えたさ」 「先生、意外と臆病なんですね」 美園が言うと、あちらこちらで笑いが上がった。 「笑い事じゃないぞ。あれって、意外と怖いぞ」 高田が顔を膨らませる。 「どんな女だった。花子さん?」茂木がきく。 「背の低い高校生でしたね。制服を来ていましたから。……マスクをしていたので顔は分かりませんでした」 「なんだ。高田先生、高校生にからかわれただけですよ。女の子は、そんなことをしたがるんです」 美園が笑った。 「綺麗だと応えなかったら、どうなるんですか?」 江元がきいた。実際にそんな悪戯をしている高校生がいるなら、教育委員会にも詳細な内容を報告しなければならない。 「呪われるとか恥ずかしい思いをするとか、……生徒によって、応えはマチマチでしたね」 「吸血鬼はごめんだけど、美人の女子高校生なら出合うのも悪くはないですね。しっかりお説教してやりますよ」響鬼がいう。 「おっと、時間だ」 予鈴が鳴り、教師たちは慌てて席を立った。 「江元教頭。地下鉄の花子さんなんて、所詮、面白半分につくられた都市伝説です。相手にする必要、無いと思いますよ」 最後に出たのは美薗だった。 江元だって地下鉄の花子さんなど信じてなどいない。問題は、そうした話を面白がり、時には心から信じてしまう生徒たちの心理なのだ。 美薗が閉めた職員室のドアを、江元は見ていた。
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