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数日後、新聞には日比谷線が止まったという記事が載っていた。やはり、痴漢が線路に下りて逃げ、逮捕することはできなかったというものだった。
「地下鉄のトンネルなんかの何処に逃げ道があるんだろうな?」
江元が声にすると「暗いから隠れやすいんじゃないですか」とキッチンで洗い物をしている妻が頓珍漢なことを応える。
「非常口ぐらいはあるのだろうな」
自分の疑問に自分で応えると、「そうですよ」と彩加も同意した。
「安奈。痴漢にあったことあるか?」
江元は娘の身を案じて訊いたが、単なる好奇の質問にしか取れない。
「お父さん。娘に恥ずかしいことを言わせるつもり?」
安奈はミルクを飲み干すとプイと立ち背中を向ける。
「朝練があるから。……行くわ」
「あら、早いのね?」
彩加が訊いたころには、娘は玄関の外にいた。
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