遭遇

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ゴトン、ゴトンと地下鉄は一定のリズムで揺れる。もうすぐ路線が集中するターミナル駅に着く直前のことだった。 「……!」江元は異変を感じた。 女子高校生の柔らかな胸が腕に押し付けられ、鞄を持たない方の左手を握られたのだ。細い指をねっとりと絡めてくるのが不気味だった。痴漢がいるように、痴女もいるのかと少女の横顔に視線を走らせた。 「ワタシ、キレイ?」猫なで声が耳元でする。 「……ウッ」こいつが……。痴漢のことばかりを考えていたが、地下鉄の花子さんという存在が江元の中で巨大化した。 頬が引きつるのを江元は感じた。悪戯だと思っていても、得体のしれない恐怖は付きまとうものだ。 「ワタシ、キレイ?」声が繰り返す。 江元は人を小馬鹿にした匂いを感じ、教育者としての勇気を振り絞った。 「君が地下鉄の花子さんだな。ふざけるのもいい加減にしなさい。みんなが迷惑する」 低い声で厳しめに注意をする。 江元の声は地下鉄の轟音にかき消された。
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