10人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
「イャー!」
突然、地下鉄の花子さんが悲鳴を上げた。
周囲の視線が少女と中年男の間を行ったり来たりする。
「どうしたの?」
親切ぶった隣の男が聞いた。
「この人、痴漢です」
地下鉄の花子さんは、握っていた江元の手を無理やり引っ張り上げた。衆人の眼に止まるように……。
汚いものを見る冷たい視線が江元を襲った。
「わ、私は痴漢なんかしていない」
江元の声は誰の耳にも届かなかった。
電車が駅にとまると、江元は乗客たちの手で電車を降ろされる。
「何だ、この手に付いているのは……」
ご丁寧にも江元の指には湿った陰毛らしきものが絡まりついていた。
女子高生の頬がピクリと動いた。それから「わあっー……」と声を上げると、その場に泣き崩れてしまう。編んだ長い髪が背中で揺れて、乗客たちの同情を集めた。
「私は何もやっていない。彼女の方から……」
周囲に訴えても誰も聞いてはくれなかった。ただ、罵倒と冷たい視線に晒されるばかり。
何てことだ。意味が分からない……。江元の頭の中が真っ白になった。
最初のコメントを投稿しよう!