10人が本棚に入れています
本棚に追加
地下鉄駅に続く地下街は帰宅を急ぐ人々であふれていた。
「ハナコー」
手を振る女子高校生が帰宅途中の江元宗佑にぶつかり、江元は鞄を落とした。
「痛い!」
ぶつかってきた女子高校生が被害者のように声を上げ、謝るどころか江元を睨みつけて友達のところに駆けて行く。
「まったく……」
江元は中学校の教頭だが、憤りながらも呼びとめて説教するようなことはしない。そんなことをしたところで効果がないことが分かっているからだ。真面目に叱ったりすれば、動画を撮られてネットにさらされるのが落ちだ。
江元は鞄を拾いながら駆け去る女子高校生の白い太ももを見ていた。女子高校生は友人に追い付くと背中に抱きつくようにして行ってしまう。その姿は、あっという間に帰宅を急ぐ日地人の雑踏に飲み込まれた。
最初のコメントを投稿しよう!