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どれだけ走り、どれだけ休み、どれだけ歩いただろうか……。女子高校生に濡れ衣を着せられた江元は、暗闇の中をゼイゼイと息をしながら移動していた。
痴漢容疑で取り押さえられた後、隙を見て逃げ出していたのだ。恥ずかしさと懲戒免職を恐れる一心から足が勝手に動き出し、線路に飛び降りて暗闇向けて走ったのだが、どこにも行くあてはなかった。
それでも線路を走り出してからは学生のころに陸上をやっていたことを思い出し、逃げ切れると考えていた。実際、最初のころは後方に人の声や足音がしたが、今では何も聞こえなくなっている。
痴漢なんかで捕まったら、懲戒免職は間違いない。
「妻と娘のためにも、仕事を失うわけにはいかないのだ」
自分に向かって逃走の理由を何度も言い聞かせた。
「どうして、どうしてこうなった」
足を進めながら自分が苦境に落ちた理由を探した。そして、トンネルから出る非常口を探した。
自分より先に何人もの痴漢たちが……。いや、きっと彼らも自分と同じような冤罪で逃げたのに違いない。……彼らが逮捕されていない以上、必ずどこかに出口があるはずなのだ。
「非常口はどこだ……」
一歩、一歩、江元は足を進めた。
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