痴漢

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プォーン……、トンネルの奥から警笛が鳴り、やがて減速した地下鉄がホームに停まる。銀色のステンレス製の車体のドアが開くと乗り換えを急ぐ人々が中から溢れ、最後の1人が降りる前に、ドアの両側に並んでいた客たちが急いで乗り込んだ。急いで乗り込んだところで席が空いているわけはないのだが、立っているにしても、誰もが居心地の良い場所に立ちたいと思っている。 ―――閉まります――― 放送がなり、ドアが閉まると車内はマネキン人形が積まれた車両のようになって走り出す。 江元の乗る地下鉄は私鉄と相互乗り入れしており、乗り換えることなく自宅の最寄り駅まで行くことができる。通勤通学時間帯なら5分ほど待てば電車がやってくるからストレスもない。それは朝になれば太陽が昇ることのように自然なことだと思っていた。 その日は、いつもと少し違った。 江元の乗った地下鉄がひと駅走ったところで止まったまま動かなくなったのだ。 「どうしたんだ?」 車内がざわつき始めたころ、「先行列車内で迷惑行為があり、運行を見合わせております。お急ぎのお客様にはご迷惑をおかけいたします」と車内アナウンスがあった。
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