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5分、10分と地下鉄が動かないうちに開けっ放しのドアから乗り込む客は増え、社内が窮屈になっていく。
座席に座る人々にまで押し込まれた客が覆いかぶさるようになると、地下鉄内のどこにも居心地の良い場所はなくなっていく。
「痛い!」「押さないで」「しょうがないだろう」「奥、もっとつめて」様々な声が飛び交い、可愛らしい噂話など聞こえなくなった。
地下鉄の花子さんの話をしていた少女たちは押しつぶされていないだろうかと案じたが、確認する術はない。それどころか胸を圧迫され、江元自身、呼吸をするのがやっとだ。
「お待たせいたしました。乗客が線路に立ち入ったために全線にわたって運行を中断していましたが、安全確認が終了したため、間もなく発車いたします」アナウンスがあったのは、地下鉄が止まって30分も過ぎたころだ。
「線路に降りたのか」「迷惑な奴だ」批判の声は僅かだった。そうできないほど、乗客は自分を守るのに必死だった。
地下鉄は、乗りきれない乗客をホームに残したまま走り出す。
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