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安奈が帰ってきたのは、江元が風呂を使ってテレビの前でくつろいでいる時だった。
「遅かったな」
「電車が止まっていたのよ。巻き込まれちゃって……」
「父さんもそうだが……」
江元は時計を見上げて時刻を確認した。
「あれから2時間近く過ぎているぞ」
「その後にもあったのよ」
「お父さん!」キッチンから彩加が催促する。
分かっていると目で合図を送り立ちあがった。
「安奈、話があるんだ。部屋に行こう」
リビングで話すと彩加が感情的になって口を挟み、話がややこしくなるので娘を連れだした。
安奈の部屋に入ると、ぐるりと見回す。ロックバンドの派手なポスターが壁に貼られているものの、きちんと片づけられていて父親としては言うことがなかった。
「また成績の話ね。お母さんに言われたんでしょ。お茶の水に入れるように、頑張ればいいんでしょ」
安奈は先を読んで釘をさす。
「それより、母さんとしっかり話すことだ。自分の話しを聞いてもらえないと言っていたぞ」
「だって、お母さん、くどいんだもの」
「安奈のことを心配しているからだよ」
「それじゃ、お父さんは、しっかり話しているの?」
安奈は夫婦のことをよく知っていて、江元の弱点を突いて来る。
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