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「……とにかく、母さんに心配かけないように注意しなさい」
こんな言い方ではいけないと思いながら、そんな言い方しかできなかった。
「お父さんこそ気を付けてね」
「ん?」
「地下鉄の花子さんよ。私綺麗ときかれたら、綺麗だよって応えるのよ」
「なんだ、そんなことか」
「知っていたの?」
「地下鉄の中で誰かが話しているのを聞いた。都市伝説の類だろう。馬鹿な話だ」
「馬鹿にしてはダメよ。綺麗だって言わないと、大変なことになるから」
「満員電車でお化けや妖怪が出るはずないだろう。社会を舐めたやつがふざけているだけだ。そんな噂話を広げるようなことは止めなさい」
「分かったわよ。まぁ、お父さんなら、地下鉄の花子さんも近づきそうにないわよね」
安奈は眼だけで笑った。
「出て行って。着替えるから」
安奈が制服のブラウスのボタンをはずし始めるので、江元は慌てて部屋を後にした。
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