痴漢

9/9
前へ
/27ページ
次へ
「……とにかく、母さんに心配かけないように注意しなさい」 こんな言い方ではいけないと思いながら、そんな言い方しかできなかった。 「お父さんこそ気を付けてね」 「ん?」 「地下鉄の花子さんよ。私綺麗ときかれたら、綺麗だよって応えるのよ」 「なんだ、そんなことか」 「知っていたの?」 「地下鉄の中で誰かが話しているのを聞いた。都市伝説の類だろう。馬鹿な話だ」 「馬鹿にしてはダメよ。綺麗だって言わないと、大変なことになるから」 「満員電車でお化けや妖怪が出るはずないだろう。社会を舐めたやつがふざけているだけだ。そんな噂話を広げるようなことは止めなさい」 「分かったわよ。まぁ、お父さんなら、地下鉄の花子さんも近づきそうにないわよね」 安奈は眼だけで笑った。 「出て行って。着替えるから」 安奈が制服のブラウスのボタンをはずし始めるので、江元は慌てて部屋を後にした。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加