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バスが止まると同時に隣の女がすくっと立ち上がり麗子の顔を見た。麗子は軽く頷いて、女はそれを確認すると前方の出口の方に歩き始めた。
麗子は幽子に「行くよ」と言い、幽子はそれに従うように後ろからついて行った。他の乗客は相変わらず私達には無関心のようで淡々と座り続けていた。
バスの降車ステップを降りると既に町の灯が灯り始めていて、バス停から伸びる古い商店街も狭苦しそうな道路の両脇に立ち並ぶ街灯が時折寿命が途切れそうな瞬きをずっと繰り返していた。
色褪せた町。それが第一印象だった。
幽子は元々この辺りに住んでいた訳でもないので、この商店街に立ち寄るのは初めてのことであった。
「なんかさあ、凄くロマンチックなところだよね」
幽子は辺りを見回しながら懐古的な口調で言った。
「私もここは初めてだけど、たまにこんな感じの商店街もまだまだ残ってはいるんだよねえ」
懐かしいのか淋しそうなのかよく分からない顔をする麗子にすっと肩を並べると、幽子は「さっさと済ませるからね。面倒臭いから」と耳元で囁いた。麗子は「そうだね」と言うと、三歩ほど前を歩く女に「美鈴ちゃん、まだ遠いの」と声を掛けた。
「あ、いや、うん。ごめん、もう近いよ」
美鈴が歩を早めた。
それを見て幽子と麗子は遅れまいと美鈴の後ろに駆け寄り体を寄せるように歩いた。
それから10分ほど歩いただろうか。にわかに美鈴が足を止めた。そしてそのままこちらを振り向かずに「ここ」と言った。幽子と麗子は呼吸を合わせたかのように道の向こう側に視線を飛ばした。
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