第一章 幽霊の幽子(通称)

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玄関に入ると室内が薄暗いことに気付いてすかさず辺りを見渡した。 照明は玄関の天井にあるだけで、どうやら廊下には一つも無いらしい。その上、玄関の天井の照明は丸い蛍光灯に四角い傘がついたかなり古いタイプのもので、中の蛍光灯も黒くなった部分が目立つ明らかに照度不足の状態であった。 壁紙はクロス張りではなくてベニア板みたいに見えた。それが少しばかり黒ずんでいるようで、室内の暗さをより一層際立たせるような異様さを醸し出している。 床は、いつかテレビで観たことのある廃校になった小学校の廊下のような板張り で、お世辞にもセンスの良いとは言えないえんじ色の玄関マットが一枚、目の前に敷いてあった。   「どうぞ、上がって」 美鈴が先に上がって手招きをする。 麗子は再度室内の隅々にまで気を通すように注意深く観察した。だが、霊の気配を微塵すら感じ取れない。 麗子は幽子に「どう?」と問うたが、幽子は首を横に振って「何にも感じないけど」と言って家の奥へと勝手に入って行ってしまった。麗子は、「ちょっと待って」と言おうとしたが、そんな間など無かった。 麗子は仕方が無くなり美鈴に「台所が一番酷いんだよね。何処かな?」と案内を催促した。美鈴の後ろに続いて一人分ほどの幅の廊下を歩く。かかとを下ろす度に床がギシギシと鳴いた。
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