第一章 幽霊の幽子(通称)

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幽霊の幽子は華やかで騒々しい場所が好きである。 商店街やデパート、飲み屋街によく出没する。 定石の、「夜風にゆらゆらとなびく柳の木の下に幽霊が恨めしや~」だなんて、それなりに長くやっていると「なに、それ?」って感じで馬鹿らしくなってくる。 だけど陽気なやつかと思えば、そんなことはなく、どちらかと言えば物静かな雰囲気を纏っている。 雑踏の中で一人クールに決める。それが格好良い女の姿だと思っているからである。 所謂、ツンデレ系という部類のやつなのだろうと自分では分析している。 まあ、新しい言葉の意味などどうでもいい。でまかせ気味にでも使ってさえいれば自分の中では十分に満足なのである。 幽霊の睡眠時間は平均六時間だという。一日の内でいつ寝ようが構わないが、最低でも四時間は取らないと霊力の低下が起こる。一度低下した霊力は、あることをしないと戻らないため非常に面倒臭くなってしまうのだ。そんな理由から四時間を切らないように常に多めに寝るのがこの世界の常識となっていて、ツンデレの幽子も流石にそれだけはきっちりと守り続けている。たまに思ってたよりも寝過ぎることがあるが、大は小を兼ねるでそれはそれで全くの問題無しと納得している。 しかしだ。何というか、とにかく毎日が暇なのである。人間を呪うとかそういう作業もあるだろうと思うかも知れないが、真っ当な幽霊はそんなことはしない。見知らぬ他人を呪って何が面白いのか、単に馬鹿らしいだけである。そういう訳で、特にこれといった大切な用事など発生することも殆ど無いので普段は時間を持て余して仕方がない。かと言って、引きこもってばかりいても時代遅れになって新人の幽霊に馬鹿にされてしまう。 幽子は長めの眠りから目覚めると、住まいの近くのバス停にそれとなくひっそりと、そして普通に並んだ。
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