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土曜日の午後7時過ぎだというのにバス停には先客が二人も居た。
こんな時間にこんな田舎みたいな住宅街からバスに乗って何処へ行くのだろうかと幽子は不審に思ったが、余りジロジロと見るのも悪い気がしてそっと視線を外した。
バスはすぐに来た。5分と待ってはいなかっただろう。
バスのドアが開く。前の二人が乗り込むと、続いて幽子が車内に移動した。
幽子は二人が座るのを待って自分も腰を下ろした。
他に客は三人いた。運転席のすぐ後ろの席と最後部座席、それとそこから二つ前の席にポツンと一人ずつが点在していた。
幽子は点在している客も気にはなったが、バス停に一緒に並んで立っていた客のほうに興味があった。
バスが動き出すとすぐに後ろを振り向いた。急に前席から振り向かれた窓際の女は「ウワッ」と囁くように悲鳴めいた声を出した。女は30才を少し過ぎた位で地味な顔立ちであった。
その地味な顔が驚いたので幽子は「フフフッ」と笑った。決して馬鹿にしたのではなく、単に意外性が面白かっただけではあるが。
隣のもう少しだけ若そうな女が「何?」
と言って地味な女の顔を覗き込んだ。
地味な顔の女は「あ、いや、何でもない」と答えた。
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