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幽子は地味な顔の女をしばしの間じーっと見つめた。そしてゆっくりとした口調で言った。
「見えてるくせに」
女は面倒臭そうに、「だから何?」と答えた。
「こんな時間から街へ行くつもり?」
「だから、それが何よ?」
「夜の街が好きなのかな?」
幽子は女の表情を見ながらフフフッと笑ってみせた。
「煩いなあ。それより、こんなところでいったい何をやってるの?見た感じでは、優秀な幽霊さんには全く見えないけどね。まさしく、ダメ幽霊丸出しって感じ」
そう言うと、今度は女がフフフッと勝ち誇ったように笑った。
幽子は馬鹿にされるのが嫌いであった。
一瞬、こいつを呪い殺してやろうかとさえ思ったが、普通の幽霊に「呪い殺す」など、そんな能力は微塵もないことがこの期に及んで悔しかった。
まあ、「この期に及んで」の言葉の使い方に少々難があるが、気持ち的には、ということである。
「何を怒ってるの?」
地味顔がまた薄笑いを浮かべながら言った。
「別に怒ってはないけど」
「嘘つき。完全に怒ってるじゃないー。意外と可愛い幽霊さんなんだね」
幽子は完全に頭にきた。
「の、呪い殺してやろうか?」
それを聞いて女は爆笑した。静まり返った車内に女の馬鹿笑いが響き渡った。隣の女は「ぎょっ」として目を見開いた。一緒に口も開けっ放しだ。何だかだらしないが。
他の客は変なことに巻き込まれまいと聞こえなかった振りを貫き通しているように見えた。まあ、それが正解だろう。
隣の女は一呼吸おくと、周りを気にするように小さな声で言ってきた。
「なに?どうしたのよ?大丈夫?」
「あ。ごめんごめん。急に思い出し笑いした」
「思い出し笑いって、普通あんなに爆笑する?」
「するよ、する。とっておきの思い出し笑いは大爆笑もんだよ。いつもそう」
「そうかなあ?私は殆どしないけど」
「それは、とっておきじゃ無かったからだよ」
顔の地味な女の説明に隣の女は「そう?」といって簡単に納得してしまった。多分、いつもこんな感じのコンビなんだろうと幽子は思った。
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