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大正から昭和になってまだ間もなかったから、簡潔に言えば昭和初期なんだろうけど、うーん、正確な日にちは忘れた。だって、いきなり殺されたんだからね。そんなことまで覚えてないよ。
こんなことを丁寧に説明したのに、顔の地味な女はこう言うんだもの。
「で、何、その珍しいというか変なセンスの格好は?」
「おい、おい。人が(いや、もう人では無いが)折角説明してやったのに、何故にその質問をする?
もう私の命日には興味ないのか?
ふーん、興味ないのか。
じゃあ、この格好にも本当は興味ないんじゃないの?」
女は更にもっと地味な顔をしながら無言になった。何かを考えていたようだが、そのあと座席の背中越しに身を乗り出して幽子の服装をじっくりと眺め回した。
そして、ゆっくりと座席に体を戻すと、一呼吸おいて笑った。
「あっはっはっはー」
「な、何よ?」
また大声を上げたのですぐに幽子は気にするように隣の女を見た。
隣の女は無表情で前を見つめていた。
律儀な女だと幽子は思った。
幽子は、そんなことより何故大笑いしたのかを、座席から腰を浮かせて問い詰めた。
「だって、なんか派手過ぎー」
「くっ・・・・」
こいつには言葉を選ぶという習慣は無いのか。口から出す前に一回頭の中を通してから喋べりやがれ。
幽子は念を込めてその思いを伝えようとした。そして、女はこう言った。
「で、結局のところ、それなんていうの?」
しつこいなあ。お前はストーカーか。
幽子は、どう返してやろうかと慎重に考えた。そして、自信満々に言った。
「え、知らないの?」
へっ、どうだ。思いっきり馬鹿にしてやったぞ。
「知らなーい」
なんだ、その軽い感じは?
開き直ったのか?
知らないから完全に降参したのか?
「しょうがないなあ。じゃあ、本日限定で特別に教えてやるよ。モガだよ、モガ。分かった?」
幽子はこれで立場が逆転したと確信した。
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