千古不易

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 空と大地の境界はどこだろう――  子どもの頃、何気なくそんな事を考えた。  沈みかけた太陽が、それでも茜色に染まり切る前の、まだ淡い透明さを保った光。  彼方に見える地平線にやがて身を隠すまでの、そんな曖昧な時間。  光と風――  大気と星――  何れ訪れるその暗闇を、けれども人は安らいで迎えもする。  闇の帳が降りるや、途端その光を体面なく待ち焦がれるくせに。  朝が過ぎ、昼に達すれば、もうそれを厚かましいなどと感じ、涼しげな宵の一時を想いもする。    もっとも此処では、夕闇の時間帯でもその熱気は未だに烟る。  アメリカ、――グランドキャニオン。    ラスベガスからミード湖を越えた先の、雄大なる巨石と赤土の大地。  空と大地が限りなく近付く場所。  何にも阻まれる事のない、遥かな地平線を眺めている。  その空の色を刻み込み、そして、今は亡きあの人を想った。  誰かが言っていた。  空模様は、心模様だと。  ならこんなにも美しい空が今にも泣き出しそうに映るのは――  この惑うばかりの心せいか。  有り体に言って、それは初恋だった。    7つも歳上の彼女に抱いたそれは、やはり淡い恋心だ。  恐れを知らなかった時分、率直にその気持ちを口に出せた。  彼女はそれを聞くと、こそばゆいような笑みを見せた。  そして、――きっとこれは照れ隠しだろう――揶揄うよう額を突いてきた。 「生意気。  だってあんた、私の半分しか生きてないじゃん」  子供の口から聞かされるそれは、戯言と大差なかったか。  それでも、本気で落ち込んだのを今でも憶えている。  その人は自分の姉だった。  物心ついた頃から、家には居ない不思議な家族だった。    両親に連れられて会いに出向き、時折、両親が連れ帰ってくる事も。  家にはちゃんと姉の部屋もあった。それでも、甘えさせてくれていたのか、泊まりに来る時はいつも一緒の布団に包まった。  そんな近しいようでいて、姉弟として一緒に育ったという感覚がない相手。
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