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なのにその人は、15の春を迎える事なく逝ってしまった。
早すぎる死だ。
子どもの頃はその不公平さを、そんな世の不条理を恨みもした。
けれども、いつしか自分は彼女を追い越していた。
大人になるという事は、物の観方が変わる事だと思っていた。――もっとスマートに物事を理解できるようになると。
だが実際は、ただ心が麻痺する事を覚え、鈍くなったというだけ。
そんな鈍くなった筈の心も、眼前に広がるこの勇壮な景色に揺さぶられる。
この旅を計画したのは、彼女の弔いを含めてだ。
独り、日本から離れ、世界中の色んな土地を巡った。
仕事に融通を付けて、本当に沢山の国に足を向けた。
彼女が好きだったのはネイチャー系のドキュメンタリー番組。
美しい自然遺産の数々を画面越しに真剣に眺めていた。
二人で一緒に観たその回をまるでなぞっていくかのように、独りになった自分はその足跡を辿った。
それも、ここで最後。
限られた視聴回数は、まるで彼女の限られたその命を暗喩していた。
最後の夜――
彼女と過ごせた本当に最後の晩、
番組で紹介されたのはここの景色だ。
いつもより反応が薄く、どこかぼんやりする事が多かった。
――後に思えばそれが予兆だったのか。
それでもこちらの視線に気づくと、その痩せた華奢な腕で抱き寄せてくれた。
消毒液のような、独特な薬品の匂いが染み付いた彼女の胸に頭を預けながら、その映像を観ていた。
20億年も前の地層が観測できるだとか、そんなナレーションを聴きながら、
彼女はポツリと、「行ってみたいな」と呟いた。
無邪気で――そして残酷だった自分は、「いつか一緒に行こう」と返した。
その時、彼女がどういう表情をしていたかは知らない。
抱きすくめられた自分に、知る術などなかったのだから。
番組の最後は、一際に長くこの景色を映していた。
寂寞とした荒野に、けれど暮れなずむ茜の光がそれらを力強く照らす――
この光景を。
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