千古不易

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 歳月を経れば、彼女と過ごした時間――その割合は、日常に追いやられてしまう。  これまで相応に恋もしてきた。  でも気付けば、いつもあの人の幻影を重ねていた。    まるで心に、鉛のように落とし込まれていて、そして深くに根を張っている。  そんな自分に区切りをつけるつもりで始めた。  なのに、この惑いは、一向に消えそうにないんだ。  終わりに近付くにつれ、胸臆に思い起こされるかつての時。  手の届かない存在へと昇華されて、余計にこの憧れは焦げ付き始めて、    気付けばもうそれが自身の一部だった。      遠くに行く事もできなかった彼女の代わりに――  いや、もしかしたら、自分はこうやって彼女と世界を巡っていたつもりだったろう。  思い出の中だけのその人は、それでも優しく、美しいから。  本当は、  ただもっと生きていて欲しかった。  その憧れすら、やがて煩わしい記憶に塗り替わるぐらい、家族として身近に在りたかった。  人並みに喧嘩し、仲直りをする――  そんな当たり前を過ごしたかった。  過ごして、欲しかった。  たったの15年。  余りにも酷だ。  その人生の全てが花開くだろうその瞬間に、彼女は永遠になった。  空と大地が交わる――あの境界の先へと、永遠に旅立った。  光と風――  大気と星――  世界は美しい。  こんなにも美しい。  涙で霞んでしまうほど、美しい。  果てなどないと、そう思わせる彼方の地平。  遠い――  はるかに遠い空と大地。  それでも惑いと後悔を胸に、前を見続けよう。   「もう、半分じゃないさ」  あなたが生きた倍の年月を越えてきたんだ。  だからもう、大丈夫だと思う。  これからも先も、あなたを忘れる事はない。  それでも、この世界の美しさを知ったから。  大丈夫――  生きていくよ。    さよなら、姉さん。    【Fin】  
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