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真夜中、妙に喉が渇いて目が覚めた。
冷蔵庫からミネラルウォーターを出そうと思い、起き上がろうとした時、自分の身に異変を感じた。
“うぅっ!”
体全体を何かで押さえ付けられているかのような圧迫感。
身動きが出来ず、首すらも動かせない。
“まさか……金縛り?”
このホテルには過去数回泊まっているが、今まで心霊体験はおろか、そんな噂すら聞いたことなどない。
金縛りは疲れからくるとも聞いたことがあるが、いくら移動で疲れているとはいえ、体が動かない程の疲れは溜まっている筈などない。
頭の中はやけに冷静なのだが、どうにもこうにも体はいうことをきかない。
声を出そうにも、“カヒューッカッヒューッ”と、掠れたような空気しか出せない。
カーテンの隙間から差し込むネオンの灯りで、うっすらと部屋の中は見える。
目だけを右へ左へぎょろぎょろさせるが、別に変わったところは見当たらない。
だが、急にベッドが軋むような音がした。
ギシッギシッ……
足元に何かしら、重みが掛かってくると同時に、いっきに全身が粟だった。
“キタ……”
得体の知れない嫌な気配を感じ、「誰だっ!」と叫びたくとも、相変らず声は出ない。
頭の中で般若心経を唱えながら、恐る恐る視線を足元の方に向けるものの、仰向けで寝ている状態では、せいぜい自分の鼻先や、頑張っても胸元辺りまでを見るのが精一杯。
気配の元凶は、未だ見えないとはいえ、ゆっくりとゆっくりと重みを足元から移動させていくのが分かる。
ズシィッ……
ギシィッ……
体の上を這うようにして、太ももや、腰。
そして……胸元へ……
段々と視界に入ってくる真っ黒なモノ。
ズシィッ……
ギシィッ……
“コイツは一体何なんだ?”
自分が何かをしたわけでもないのに、突然、ナニカに襲われるという理不尽さに、恐怖よりも、怒りが込み上げてくる。
“重いし……苦しいっつーの! つか、夜中にベッドの中に入ってくるなんて、変態かよっ!”
脳内ではいつの間にか、般若心経を唱えることをやめ、自分に迫りくるものへの悪態でいっぱいになっていた。
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