ここからは自己責任で――

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 そして、とうとう――  ズシィッ……  ソイツが胸元まで這い上がってきた。  睨みつけるかのようにして、目をギョロリと下に向けると……見えた。  真っ黒な長い髪。  額に眉毛。  そして、生気を感じさせない色のない【目】 「……カッシュー、か……」  何かを喋ろうとしても、相変わらず空気しか出ない口。  この状態で眠れるわけもないし、このままでは明日の仕事に支障が出る。  幽霊を理由に寝坊して遅刻しただなんて、社会人として許されるわけもない。  しかもだ!  第一。  こんな女、知らない。  何も言葉を発せず、何をして欲しいかも言わずに勝手に人の上に乗っかってくるだなんて、単なる嫌がらせとしか思えない。  喉の渇きと、睡眠の邪魔をされた苛立ちがピークに達しようとした時、そいつは更に、体を這いあがり、こちらの顔を覗き込もうとした。  目と目が合う。  裂けているんじゃないかと思う程に口角を上げた真っ赤な口が視界いっぱいに広がった時、自分の中で何かがプツリと切れた。 「のけや! ごらぁぁぁあ!」  声が出たと思った瞬間、金縛りが溶け、布団から飛び上がると、たちまち女の姿は消え去った。 「なんだったんだ?」  それからミネラルウォーターを飲み、喉の渇きを潤すと、再び睡魔に襲われ朝までぐっすりと寝て、翌朝、得意先の人達に、夜の出来事を話したのだが、「あのホテルででるなんていう話、聞いた事なんてないけどねぇ」と皆、一様に小首を傾げた。  昨晩、一緒に飲んでいた男性にも話をすると、「なんだか俺と同じような体験だよね」と、顔色を青ざめさせた。
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