君の瞳に映る僕の瞳の中にもきっと君が

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いつもは本を読み始めるとなかなかその世界から抜け出せずにいるけれどーーだからそのせいで降りるべき所で降りずに乗り過ごした事も今まで何度もあって、だから結局この早い時間の地下鉄に乗っているのは敢えて触れないで欲しいーーその日、彼の存在を初めて気付いた日は、いつもと違った。 珍しく乗ってきた親子連れの赤ちゃんが泣き叫んだ声で、水面に無理やり浮上させられたように我に返った。 で、その赤ちゃんの方を一瞬見たけれどまた本へと視線を移そうとしたところに、目の端に視線を感じて顔を再び上げたときに彼とバチンと目が合った。 私は慌てて目を逸らした。 ににに睨まれた!? 私あなたに何か悪いことしましたか? あなたの事知りませんが!? ごめんなさい。怖いからこっち見ないで-! その日からは、更に地下鉄の中では本をひたすら読むようになった。 彼との壁を作るために。 地下鉄を降りる後ろ姿だけを時々確認する事もあったけれど、彼と一緒の空間にいる間は極力顔を上げないようにしていた。
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