【第二部】  第九章  エール国 宮殿

40/44
前へ
/441ページ
次へ
 ローズはやや躊躇しつつ、慎重に言った。「恐らく、その一人はベクトルかと」 「何だと! 先日奴とは“テラウェーヴタワー”再建事業について話合ったところなのだぞ。そして奴の会社には復興で八百億をやると言ってやったのだ……この二枚舌使いめが!」  フォレストは叫び、神経質そうに親指と人差し指の間で鼻翼を抓み、残りの指で頬を撫でつけた。  ふん、とローズが鼻を鳴らした時、唯一外部と連絡できる電話が鳴った。  一瞬、二人はぎょっとしたが、フォレストは平静を保って、受話器を取り上げた。 「何、姫が奴のところへ向かった? アユームも一緒だと? 馬鹿者、押さえるのだ。奴に会わしてはならん。誰かおらんのか? シビングトン? ああ、彼でいい、すぐに向かわせろ!」  フォレストが話すなか、二秒おきに回線を繋ぐ信号が変わり、そのたびにプツプツというノイズが聞こえた。 「どいつもこいつも、どうして問題ばかり起こすのだ!」とフォレストは悪態をつきながら、受話器を叩きつけるように置いた。 「どうした?」  ローズが心配気な表情でフォレストを見る。
/441ページ

最初のコメントを投稿しよう!

94人が本棚に入れています
本棚に追加