甘い誘い

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 _______  原口の去った社長室。 「これは一体、どういう事かな?」 「ううう…スミマセン…」  仰向けに倒れたまま、燈子の脇を持ち上げながら、社長はスッと立ち上がった。 「ああ、君は確か… 大神君の所の子だね?今朝、彼と一緒だった」 「ハイ…」  バレてる。  燈子は愕然として項垂れた。 「えーっと名前は…そうだ。赤野…燈子君だ。そうだね?」 「ええっ!私の名前、ご存知なんですか?」 「ああ、社員の顔と名前は覚えるようにしてるんだ。  大切にお預かりしているつもりでね」  うっひゃあ!  燈子は丸い目をさらに丸くした。  本社だけでもゆうに200人はいる社員を全部覚えるだなんて。  自分なんて、いつも山田商事の佐東主任と、(株)サトウの山岡主任をいっつも間違えるのになあ。  燈子が感心していると、社長は歪んだネクタイを整えながら、静かな声で尋ねた。 「さて。  話してくれるね?  何故あんな所に隠れていたのか。 まさか、原口君の言うように、私のファンという訳でもないだろう」  落ち着いた、しかし有無を言わせない口調。  投げ掛けられるまっすぐな視線には、陳腐な言い訳はとても通用しそうにない。  悟った燈子は、真実を打ち明けるほかなかった。  ただ一点、もう一人の共犯者の存在を除いて。 「ふぅむ…困ったね。どうしたものか」  燈子のUSBメモリを乗せた掌を見下ろして、社長は唸った。 「うう…」  腕組みをし、顎に手をやった社長の難しい顔に、燈子は暗澹たる気持ちになった。 _やっぱ、クビかあ。2年しかいなかったから、退職手当もあんまりないだろうしなあ…  ハロワ通わなきゃ_  
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