ウォークイン・クロゼット

1/9
前へ
/45ページ
次へ

ウォークイン・クロゼット

 で、今に至る。 「あああ…どうしよ~」 「大丈夫だ、落ち着いて探せ」  主のいない社長室に這いつくばること15分。  とうとう燈子は、それを見つけた。 「あ、あ、ありましたぁ~~、課長!」 「ホントか赤野っ」  ソファの後ろ。  絨毯の長い毛に隠れていたのが、ブラインドから覗いた太陽に一瞬キラリと光ったのだ。  そこは丁度、セレモニー時に燈子が立っていた箇所だった。  燈子はそれに飛び付くと、誇らしげに掲げてみせた。  破顔する大神。 「やったな、赤野!」 「オオカミさんっ」  喜びのあまり、思わずひしと抱き合った。 「きゃ、す、すみませんっ」 「す、すまんっ」  慌てて離れ、どぎまぎすること十数秒。  過呼吸から漸く我に帰った大神は、真顔で指令した。 「よし、急げ赤野。脱出するぞ」 「はっ!課長」  2人が扉にススス…と走り寄った時だった。 ふと、大神が足を止めた。  「!」  カツカツカツ…  コツコツコツコツ…  2つの異なる靴音と、厚い扉さえ抜けるような、バリトンの笑い声が聞こえてくる。  大神の足がピタリと止まった。 「……まずいな」 「? どうしました課長、早くしないと…」 「来いっ!!」 「ええっ?」  大神は、燈子を出口とは逆に引っ張った。  そうして、執務椅子の後ろのウォークイン・クロゼットの中に彼女を押し込み、自らも身を潜めたのだった。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

827人が本棚に入れています
本棚に追加