第1章 黒部 洋平

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ふと目線を下ろすと、真っ白な野球ボールがひとつ、ぽつんと転がっている。 どこからともなく、シオカラトンボが一匹ボールに止まると、後を追うようにもう一匹。 二匹はしばし戯れると、ハート形の後尾形態を取りながらひらひらと宙を旋回し始めた。 洋平は思う。 虫ケラどもの美醜感覚は一体どんなものか。 トンボの交尾がハート形でロマンチックなどと思うのは頭が沸いたクソな人間だけだ! 確か、オスのトンボは嫉妬深く、メスのトンボを四六時中見張っていると聞いた。 (嫉妬深いだって!?あー、ちゃんちゃらおかしすぎて反吐がでそう!) しかし、洋平は思うのだ。 でも、どうだろう。 虫ケラだって、本能のまま、ありのままに、よりよい子孫を残すためにやはり魅力的な相手を求めるのだ。 羽がもげているオスを選ぶメスがいるものか! 片目が極端に肥大化した眼を持つオスを好んで選ぶメスがいるものか!!
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