第1章 黒部 洋平

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醜いということは〝生物として〟不合格の烙印を押されたに等しい。 一度押された灼熱の烙印は、醜い生物の皮膚はおろか骨の髄まで染み渡り、決して消えることなどないのだ。 洋平は絡み合うシオカラトンボから目を逸らすと、乱暴に本を閉じ、マスクで顔を覆った。 マスクを発明したひとは偉大だ。 マスクは外部からのウイルスを阻むものではなく、醜い罪を背負った受刑者が、唯一人間としての尊厳を保つために許された、人権的配慮の副産物なのである。 図書係の職員は洋平に一瞥もくれない。それはごく機械的な流れ作業である。
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