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そして、その二日後。
莉菜があの人に会う日がやってきた。
結局昨日も今朝も、莉菜に電話で、絶対に居酒屋では会わないようにとしつこく念を押した自分。
「椿さん、今日は残業しますか?するなら、申請出してもらいますけど」
「いや、今日はしないで帰るんで」
「わかりました。……何か、最近忙しそうですね」
「え?」
残業の申請手続きの事で俺に声をかけてきたのは、うちの会社の経理を担当している青木さん。
年齢は多分俺と同じくらいだろう。
諸橋さんは、『ミズホちゃん』と親しげに呼んでいる。
もちろん俺は、下の名前で彼女を呼ぶような事はしない。
そもそも、仕事以外で彼女と絡んだ事はない。
「仕事はそれなりに忙しいですけど。でも残業しなくても何とかなるぐらいなんで」
「あ、仕事じゃなくて、プライベートの方が……」
「プライベート?」
「昨日も残業しないで帰ったんで、もしかして新しい彼女出来たのかなって……」
その言葉を聞いて、この間諸橋さんが言っていた事を思い出す。
『ミズホちゃん』が、俺を狙っているという話。
別に自意識過剰なわけではないけれど、このときやっとあのときの諸橋さんの言葉が現実味を帯びた気がした。
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