212人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は既にコーヒーを淹れ終えて、運ぶタイミングを失っている莉菜に、敢えて優しく声をかけた。
「莉菜、コーヒーちょうだい」
好きとか嫌いとか、そういう感情は、俺は表情よりもまず先に声に出ると思っている。
実際、いい例が自分だ。
未来や他の女性に対しては、出そうと思っても出せない声が、莉菜に対しては驚く程自然と出てしまう。
使い分けているつもりなんかないのに、自分でもすぐに気付くくらい声のトーンが変わる。
そして、恐らく俺の事をよくわかっている未来が、その事に気付かないはずがなかった。
「え、あ、はい!」
莉菜は思いきり緊張した表情でコーヒーを運んできて、俺と未来の前にコーヒーのカップを置いた。
その手は微かに震えていた。
「何で手、震えてんの?」
「うるさいな。緊張してるの」
「緊張?何で?ここ、莉菜の家じゃん」
案の定未来は、今まで見た事もないような表情で、俺と莉菜が会話している様子を黙って見つめていた。
最初のコメントを投稿しよう!