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その日の夜。
クライアントとの打ち合わせが早めに終わり、俺は予定よりもだいぶ早く未来が勤めている会社の近くに到着した。
付き合っていた頃は、一度もここへ来た事はないのに。
別れてからここまで来るなんて、未来にとっては皮肉だろうな。
なんて思いながら、未来が出てくるのを待ち続けて数十分。
会社の正面玄関の自動ドアが開き、三人の女性が横並びで何か会話をしながら出てきた。
その三人の中央で笑っているのは、間違いなく未来だった。
俺は少し離れた場所から徐々に未来に近付き、だいぶ近くなったところで声をかけた。
「未来」
目の前に現れた俺を見て、未来はついさっきまでの笑顔を消した。
その顔は少しだけ、やつれているようにも見えた。
「類……」
「今、ちょっといい?」
「……」
未来と一緒に会社から出てきた女性二人は、俺の顔を覗き込みながらコソコソと何かを話して、その場を離れて行った。
「……会社まで来ると思わなかった」
「どうしても話がしたかったから」
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