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合宿は予想以上の厳しさで、夕食後に開かれた勉強会も疲れを一気に増加させた。
岩倉がお遍路さんの事を思い出したのは、眠る間際に同級生が「怖い話でもしよう」と言ったからだ。
同級生5人で枕を並べて1人づつ怖い話をしていく。そして岩倉の順番になった時、今朝見たお遍路さんの話をした。
「振り向いたらお遍路さんがいたんだよ。影がないっていうか、ぞわって鳥肌が立って、すぐ幽霊だって分かったんだよ」
岩倉は興奮気味に話すが、友人達は「それホントかよ」と半信半疑で笑う。
「その後、そいつ、どこ行ったんだろうな」
同級生の1人がそう言った時だ。
隣の奴が、ギョッとした顔をして動きを止めた。
「なんか……聞こえない?」
耳を澄ませると、空耳などではなく全員がシャン……という金属音を聞いた。
「おい……これ、近づいて来てない……?」
言ったのは1人だが、皆気付いていた。
定期的にシャンシャンと鳴る音はたしかに合宿所へと近づき、近づくにつれて、音の間隔が短くなり敷地内の砂利を踏む音も加わった。
それぞれの布団に寝ていた岩倉たちも、音が近づくにつれて全員が部屋の中心へと固まった。
歩く音は部屋の周囲をグルグルと囲むように、鳴り続ける。
稽古で疲れ果てているのに、恐怖の為に全員一睡もしないまま、カーテンの隙間から朝日が差し込み始めた。
外がうっすらと明るくなっても、まだ歩く音は消えない。……しかしここで岩倉たちは、新たな恐怖が脳裏に浮かんだ。
「……なあ、朝練、遅れたらやばいよな……?」
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