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「類、泣いてる……」
「……」
俺の頬に触れた彼女の指先が、微かに濡れた。
それを見て、自分が涙を流している事にやっと気付く。
泣きたいのは、莉菜の方だ。
泣きたいぐらい、怖い思いをしたのは莉菜の方だ。
たとえ意識が朦朧としていたとしても、潜在的に記憶には残っているだろう。
知らない男達に、連れ去られそうになった事。
俺にここで涙を流す資格なんてない。
それなのに、彼女の瞳が俺の姿を映した瞬間、無意識に涙が溢れてしまっていたんだ。
「痛っ……」
「大丈夫?どこが痛い?」
「何か……頭がガンガンする……」
恐らく、カシスオレンジに混入された薬のせいか。
「ていうか……私、どうしてここに……」
莉菜は痛む頭を抑えながら、必死に記憶を辿り始めた。
そして数分間黙り込んだ後、何かを思い出したのか急に血の気が引いたかのように顔色が変わった。
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