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何かあったか聞いたところで、何もないと返ってくるんだと思っていた。
莉菜は自分では未だに気付いていないらしいけど、何か嫌な事があったときは必ずと言ってもいいほど声に出てしまう。
そのくせに、何かあったのか聞くと、笑いながら何もないと平気で口にする。
……作り笑いを浮かべながら。
「……すごいね、類」
「え?」
「電話の声だけで、わかっちゃうんだね」
「……」
やっぱり今日の莉菜は、やけに素直だ。
それが妙に俺の心をざわつかせた。
「わかるよ、莉菜の事なら何だって。いつも言ってるじゃん。顔見なくても、それぐらい簡単にわかる」
心にくすぶるざわつきを振り切るかのように強気でそう言うと、電話の奥の莉菜は何も言葉を返してはくれなかった。
「莉菜?聞いてる?」
「……うん、聞いてるよ。ごめんね、実は今日仕事であり得ないミスしちゃって」
続けて、やっぱり類には隠し事出来ないね……なんて泣きそうな声で明るく言うから。
今すぐ会いに行って抱き締めてあげたくなる。
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