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「……どんだけ良いヤツなの、アイツ」
もうとっくに走り去ったタクシーに向かって、一言そう呟いた。
ありがとう、賢。
私が本当はどうしたいのか、気付かせてくれて。
私は空車で近付いてきたタクシーに向かって手を上げた。
タクシーはゆっくりと私のすぐ傍で止まり、扉が開いてタクシーに乗り込んだ瞬間に私は早口で行き先を告げた。
何度も、忘れなきゃって思った。
でも、忘れるなんて無理だった。
この行動が正解だなんて、思っていない。
きっと私は今、茨の道へと進んでいる。
間違っていると周りに非難されても、仕方のない事だとわかっている。
……それでももう、後戻りなんか出来なかった。
類に会いたい。
会ったって、どうしようもない事なのかもしれない。
もう類は、新しい恋へと踏み出しているかもしれない。
一緒に生きていく事を一度拒んだ私なんかに、もう二度と会いたくないと思っているかもしれない。
それでも。
私は、会いたくて仕方がなかった。
必死に堪え続けてきた分、一度行動に起こしたらこんなにも想いは溢れてくる。
高鳴る胸を抑えながら、私はタクシーが類の家の前へ到着するのをただひたすら待ち続けた。
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