154人が本棚に入れています
本棚に追加
「……行かない。私はここで頑張るって決めたから」
「だと思った」
「え……」
賢は苦笑しながら呼び止めたタクシーへと乗り込んだ。
そして発車する前に、私の目を真っ直ぐ見つめて言った。
「ほっとしたよ。相変わらず、要領が悪くて」
「な……!」
「簡単に生きていく方法なんていくらでもあるのにさ、結局お前は苦しい道を選ぶんだよな」
要領は確かに良くはないかもしれない。
だけど、進むべき道はいつだって自分で決めてきた。
だって自分の人生だから。
他に、責任を取ってくれる人なんていないから。
他人が作ってくれた逃げ道に逃げ込んでしまえれば、楽なのかもしれない。
それはそれで、幸せに生きていけるのかもしれない。
でも、そういう生き方に自分が向いていない事は、自分が一番よくわかっていた。
そして、賢も。
きっと、わかってくれているんだと思う。
「でも俺は、お前のそういうとこ、良いと思うよ」
「……」
「じゃ、またな。向こう行って万が一寂しくなったら連絡するわ」
「……賢なら、どこでもうまくやっていけるから大丈夫だよ」
そうアドバイスを送ると、賢は笑って「安定のテキトー加減」と嫌みを最後に口にして、賢を乗せたタクシーはゆっくりと私の目の前から去って行った。
最初のコメントを投稿しよう!