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「んっ……!」
「もういいよ」
私の唇を啄みながら、類は器用に言葉を口にしていく。
「莉菜がここにいるなら、もうそれでいい」
「……」
「それだけで、幸せだから」
「……うん」
どんなに好きだって言い合っても、足りない気がした。
どんなに愛を囁いたところで、まだ欲しくなる。
類の手が、私の手をギュッと握りしめる。
絡み合う指に、愛を感じた。
「何?ニヤニヤして」
「……何でもない。ちょっと思い出しただけ」
「キスの最中に何を思い出したの?」
「内緒」
こんな深くて濃厚なキスの最中に思い出したのは、類と交わしたファーストキスだった。
まだ16歳だった私。
そんな私よりも更に幼く、12歳だった類。
初めてのキスを類に奪われたあの瞬間、奪われたものは唇だけじゃなかったのかもしれない。
もしかしたら、心も同時に、奪われていたのかもしれない。
あの、一瞬のキスで。
この未来はあの日から、決まっていたのかもしれない、なんて思った。
「内緒って何。気になるんだけど」
「大きくなったね、類」
「それ、どういう意味?」
良かった。
ファーストキスの相手も、今こうしてキスをしてる相手も。
類で良かったって、心底思った。
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