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……前にもこんな事あったって、ふと思った。
そうだ。
あのときは、自分の29歳の誕生日で。
結婚すると勝手に夢に描いていた相手に失恋した日だった。
「……何も、変われてないじゃん、私……」
あの頃から、少しも進歩していない自分に呆れる。
一つの恋が終わる度、他人に弱音は吐くくせに、他人の前では涙を見せるのを拒んで。
一人になった瞬間、こうやって堰を切ったように涙を流している。
強い自分でいたいって、いつも思っていた。
だけど、こんなの少しも強くなんかない。
他人の前で泣かない事が、決して強いわけじゃない。
むしろ、弱いから泣けないんだと思う。
あのときだって、そう。
瑛祐に失恋したあの日、誰もいないと思っていたこの家で、私は泣いた。
誰もいないと思っていたから。
でも、あのときは類がいたんだ。
真っ暗な部屋の奥から、私に近付いてくる足音だけが聞こえてきて。
それで……。
そのとき突然部屋の奥から、ガタンと扉が開く音が聞こえた。
「……え……」
あり得ないはずの音が、部屋の奥から聞こえてくる。
静かな暗い部屋の奥から、あのときの足音が。
あのときも、足音が聞こえてきた事に気がついて、泣きやんだ瞬間……。
「……何でこんな所で一人で泣いてるの」
夢、
「ていうか、莉菜帰ってくるの遅過ぎだから」
じゃない。
……類が、私の目の前に、いる。
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