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「別に焦って行動に移したわけじゃないんだけど……」
「何よ。仕事以外の時間は出来るだけ離れたくないって?」
「……」
茶化すように言った美月の言葉は、決して外れてはいない。
あの出来事は、確実に恋愛に対しての私の価値観をがらりと変えてしまっていた。
だって、もう二度と離れたくないから。
またあんな風に離れる事があったら…と思うと怖くて、同棲は私の方から提案してしまった。
『……すぐに、一緒に住みたいな』
まさか自分がそんな急かすような事を言う日が来るなんて思わなかった。
本気の恋は、簡単に人を変えてしまう。
「うわー、椿にそんな事言われたら、類くん堪んないね。ソッコーでマンション引き払うわ」
「……」
それも、当たってる。
類は私も驚くほどのスピードで、引っ越しを済ませてきてくれた。
同棲の事は、母には電話で伝えた。
あの忌まわしい出来事を何も知らない母は、「類くんに迷惑だけはかけないでよ」と言ってあっさりと同棲を了承してくれた。
……でも、父にはまだ話していない。
それどころか、結局いまだに父とは言葉を交わす事も顔を合わす事も出来ずにいた。
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