冬の匂い

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ふうっと、吐き出した息がいつにも増して白い。昨日買ってもらったコートのポケットに両手を入れて、僕は歩道を歩き続けた。 朝に彼と別れて、大学に行って、講義を受けて。父に会いに、病院へ行って。もう、夕方。時間の流れが、異様に早く感じられる。 彼のマンションに入るが、彼の部屋には向かわない。ひとつ下の階で降り、インターフォンのボタンを押す。 「こんばんは」 『はい。……って、いのりさん?』 嵐くんの声がして、間もなくドアが内側から開いた。 「どうしたの」 「ちょっと今、いいかな」 「……いいよ、入って」 嵐君の許可を得て、中に入る。 嵐君はリビングの大画面テレビでゲームをしていたらしく、画面には僕も知っている有名なRPGが映し出されていた。
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