冬の匂い

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そして、溜め息。 嵐君なりに思うところがあるのだろう。しかし彼はそれを口にしなかった。そういうところが、彼らしかった。 「青司君には?」 「え?」 「言ったの? 好きだ、って」 「言って、ない」 嵐君の問いに正直に答えると、彼はくりっと瞳をまるくした。 「え、何で?」 「何でって……」 あのひとに気持ちを伝える? 好きだと、思った。それで全てだと思った。その先のことは、まだ何も考えられていなかった。 くすっと、嵐君が笑う。それは彼そっくりの、大人びた微笑みだった。 「自分のものにしたいな、とか思わない?」 彼を、僕のものにする。 ──まるで、夢物語だ。
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